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【読書感想文】小さい牛追い

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著:マリー・ハムズン

 

 

読んでいるだけであったかい


 この本は、前に紹介した『子どもはみんな問題児』の著者、中川李枝子さんが本作の事について述べられていたので、どんなお話かと気になって読んだ次第です。
 


 舞台はノルウェーの「ランゲリュード(長革)」と呼ばれる農場。そこに住む家族達のお話。小さな農場でしたが、大きな牧場を所有しており、春になると大勢の人から牛や山羊などを預かって放牧する「牛追い」が彼らの仕事。ランゲリュードには4兄妹がおり、主に長男のオーラと次男のエイナールが主人公です。

 一年を通してその家族の暮らしを追い、牛追いをする中でのトラブルを乗り越える姿にハラハラさせられたり、家族を取り巻く人々、牛達など、個性豊かなキャラクターもたくさん登場して読者を楽しませてくれる物語でした。
 岩波少年文庫の小学校4・5年生以上から推奨という事で、長さもちょうどよく、一晩の夜更かしに良い感じです。

 

 まず、読み終えて率直な感想ですが「文章から伝わるあたたかさってこういう事なんだな」と納得できる本でした。
 原作者のストーリーは勿論、翻訳の石井桃子さんのやわらかい日本語が、まるで読者を毛布に包んでいるかのようにあたたかいのです。中川李枝子さんの本もこういった口調で書かれているので、これらの話から影響を受けているのかな、と思いました。
 そして、四季が美しい。特に春の描写といったら、ほかほかして眩しさが感じられました。

 


 そして、見たこと無いのに想像しやすい物語。大草原の小さな家のようなちょっとセピア掛かった映像で、頭の中で映画のように登場人物達が動き出します。読了後は心に充足感とぬくもりが残り、「もっともっと続きが読みたい!」そんな気持ちにさせられる良い本でした。

 


 また『五月十七日』というお話では、子ども達がイベントを自分たちで計画するのですが、楽しむときは親子総出で楽しむ姿があり、子どもの頃感じた「自分たちで楽しみを作り出すワクワク感」を思い出させてくれました。他のお話の中でも、子ども時代の気持ちを思い出させてくれたり「こんなに仲のいい家族になっていこう」そう思わせてくれることがたくさん出てきます。

 

 家族がいる方、日常的に子どもと関わる方、特にお母さんは一読の価値ありです。子ども向けのお話かと侮るなかれ。

 

 

 

 

子ども本来の姿


 このお話で子ども達は立派な働き手です。男の子達はそれぞれ一人で牛追いをし、値段交渉もお手の物。火を起こして野宿も出来ます。しかも、全て自らすすんで楽しんでやります。ぬくぬく育ってきた私からしたら圧倒されましたが、きっと本来の子どもは幼くたってこれくらいできるものなのかもしれませんね。

 

 現代はなんでも「危ないから」と遠ざけてしまいます。それは、子どもが扱えない物が増えてきたことと、大人が忙しくて教えてあげられないこと、子ども同士で教え合う環境が減ったこと、それから日本人の気質として「人様に迷惑をかけてはいけない」という環境にあることも一つ。

 様々な要因があって、遠ざけてしまうに至ります。だから今の親御さんがけして悪いわけでは無いです。でも本作のような、一人で生きられる力を育てていけたら最高ですよね。私も一児の母親として、全てを教えることは出来ないけど、教えられる所は我が子に教えてあげたいと思いました。

 


子どもだけどなんでもできる
子どもだからどうしようもない


 さて、モリモリ牛追いをして働くランゲリュードの男の子達。そんな頼もしい子ども達ですが、時には秘密基地を作ってはだかんぼで遊んだり、大人からみたらガラクタを賭けて本気の勝負をしたり、そこらの草木がヤシの木になるような空想の世界にのめり込んだり、何度も死にかけたりします。まったくもって子どもらしい。おかあさんは大変ね、と同情しました。

 特に笑ってしまった場面が、友達の2人兄妹と4人兄妹が一緒におままごとをするシーン。幼い妹達が、誰が奥さんになるか一丁前に喧嘩していたら、見兼ねた旦那役の男の子が「そんなら僕一日おきに奥さん交代するよ」とまさかの一夫多妻制案を出してきて、突然の昼ドラ展開と伊達男感に思わず吹き出してしまいました。ぜひ実際に読んでいただきたい場面の一つです。

 

 

 そして、16話目の“牛を探して”という話では、なんでもできるような子どもでも「子どもだからどうしようもない」と現実を突きつけられるような場面も出てきます。舞台はフィクションかもしれませんが、浅いファンタジーではなく、真正面から子どもや家族の姿を捉えたリアリティのある作品だな、と考えさせられました。

 

 

こんな「おかあさん」になりたい!


 中川李枝子さんも『子どもはみんな問題児』の中で本作のおかあさんを称賛していらっしゃったのですが、母親の立場からして見ると、まさに理想的な母親でした。


 例えば、冒頭のお話で兄弟喧嘩の場面があるのですが、どちらにも損にならない方法を提案したり、子ども達が友達と毎日の続き遊びをしていたら、邪魔をせずに協力をする姿。
子ども達の事を陰ながらよく見ていないとどれも出来ない対応だな、と感心させられました。私なら喧嘩と見ればついドスドスと踏み入って口出しをしてしまいそう…と反省しました。


 中には可愛らしく、「特別扱いしてほしい」「おかあさんは僕のこと好きじゃない」「なんで僕ばっかり」と子どもが訴える場面も。それに対するおかあさんも、子どもの不安をいち早く察知し、「これがおかあさんだな」と見習いたくなるような対応でした。

 


 その理想的な全ての対応の根底にあるものは、

「深い愛情」と「子ども達への信頼感」だと思いました。 
 
 本の中で、子ども達が何度か危険な出来事に遭遇します。しかし、おかあさんは内心ハラハラして体を震わせながら行く末を見つめ、最後の最後に手を貸します。そうして無事に帰ってきた子ども達は全部自分たちで解決した武勇伝を嬉々としてお母さんに語り始めます。 
 
 きっと「危ないでしょう!」と早くに助け舟を出していたらこんな姿は見られなかったでしょうね。見守る勇気、子育てには必要だなと思いました。(現実では流石に命の危険があったらすぐ手を貸すかもしれませんがね)

 


 そして、最後のおかあさんのセリフ。最初から最後まで読んだ方は、きっとジーンと目頭が熱くなることでしょう。